意味深な 忘れ物?

       〜789女子高生シリーズ・枝番

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


 「お邪魔しま〜すvv」
 「………。(同上)」

八月某日、
いつもの仲良し三人娘たちの間で、
某所へお出掛けしましょという話がまとまり。
それだとウチが通り道になるから、
どっかで待ち合わせるより ウチへおいでよと言われ、
七郎次のお家で集合なんていう変則的な段取りになった。
草野さんチは閑静なお屋敷町の一角にあり、
ご当人はやたらと謙遜するし、
ご家族も気さくな方々ばかりではあるものの、

 「それでもやっぱり、結構なお住まいですよねぇ。」
 「……。(頷)」

堂々とした威容あふれる家々が連なる町並みの中、
一際目立つ風格は隠しようがなく。
ちょっとした洋館風の3階建てで、
奥まったところには純和風の離れや茶室もあるとかで。
母屋の屋内も、廊下がやたら広くて天井も高く、

 『古いってだけですよ。』

三階の客間の並びなんて、少しでも曇ると薄暗かったから、
小さいころは通るのも怖かったかな?なんて、
さほど昔のことでもなかろに、
ころころと笑い飛ばしてしまう快活なお嬢様は。
そんな年頃から親しんでいた剣道の腕前をめきめきと上げながら、
その一方で…微妙なお年頃ならではな色香を、
しっかりと匂い立たせてもおいでであり。

 「暑かったでしょ、ちょっと上がってって下さいな。」

冷たい飲み物でも飲んで一息ついてと、
優しく目許をたわめ、
自分のお部屋までお通しした仲良しさんたちへ、
趣味のいいデザインのソファーを勧める。
シックな装飾は七郎次本人の趣味。
お花だのお人形だのという愛らしい雑貨は、
嫌いじゃないが わざわざ飾る気にはならないところが、
実をいやぁ他の二人とも気が合っており。
基本の作りの風格とか温みとか、
窓枠の印象、緞子とレースのカーテンの作り出す表情、
桂藻土だろか、壁のナチュラルな質感などなどが、
さすがに無機的ではない印象を醸してはいるものの。
据え付けらしきクロゼットもシンプルな無地のそれだし、
机の上もいつだってすっきりと片付いており。
横楕円の鏡が据えられたシックな猫脚のドレッサーがあることで、
何とか少女の部屋だという主張になっているという案配。

 『それを言うなら、久蔵のお部屋だって。』

アップライトのピアノの上へ、バレエのトロフィーが幾つも飾ってあるので、
それで辛うじて…っていう、此処と似たようなクチじゃあないですか、と。
そんな言い返しをしたものの、
可愛らしい雑貨(…がらくたとも言うが)であふれているお部屋にて、
支障なく寝起きする平八へは何にも言えなかった辺り。
負けん気は強いが見栄を張るのは得意じゃあない、
年端のゆかぬ少女らしい、無垢な素直さも見え隠れ。

 “かつては…ムキにならずに、
  相手を立てての“引く”のもお上手ではありましたが。”

かつての昔、
座敷を和やかに回すのが腕の見せ所だった幇間だった名残りか、
それとも…結構なタヌキな上官による影響からか、
意固地になるばかりじゃあ物事進まぬときもあるという緩急を、
巧みに使い分けてた“彼”であり。
今の“生”でも、
場の執り成しや空気の差配、なかなかに上手な七郎次は、
とはいえ、単なる“事なかれ主義”ではなく。
竹刀を持つと融通の利かない真っ直ぐさが露見し、
ただただ清冽なところも広く知られており。
ちょっぴり不器用ではあるが、
そこから、誠実で清廉な聖女様、白百合様と慕われておいで。

 「…………。」
 「ですよねぇ。
  聖女様ったら、またスカートの丈が短くなって。」

琥珀色のハーブティがそそがれたガラスの茶器一式、
銀のトレイへ載せて運んで来た七郎次自身は、
お膝を隠すほど長い丈の、とはいえ裾の長さがアンシンメトリな、
麻のワンピースという恰好でいたけれど。
久蔵が壁沿いの衝立に掛けられたハンガーに見つけた、
トップスとボトムのワンセットは。
一緒にプラザで買ったときに見たそれよりも、
優に20センチは短くスカート丈が“修正”されており。

 「まさか、これ着て勘兵衛殿に逢おうってんじゃあ。」
 「うん。昨日、これ着て逢ったばっかですよ?」

それが何か?と、
特に挑発の気配もないまま、
けろりと口にしたお嬢様だったのへは、

 「〜〜〜。////」
 「あらまあ。」

どこまで作為的なのか、
いやいや そもそもシチさんは、
何でもいいから間違いが起こってほしいっていう、
根本的なところで間違ってるお人ですからねぇ、と。
こちらさんは“うぬぬ”と眉を寄せてしまったもう一人の親友さんへ、
とりあえずの執り成しをと構える平八だったりし。

 “妙なところで天然なお人、ですものねぇ。”

そう、
あくまで意図的ではなさそうなのだが、
でもでも何か進展してほしくてという、
乙女なりの挑発が、ついつい度を超えてしまうお友達の過激さへ。
果たしてどこまで看過してどこから制止するのが、
最適最善な応援なんだろかと。
窓からの明るい陽を吸い込んでだろか、
ますますの白さを弾く細おもて、にこぉとほころばせる元槍使いさんへ、
微妙に眉を下げつつの“あはは”と乾いた笑みを返した、
こちらは今の“生”の方がずんと気遣いも器用になった工兵さんだったが、

 「……………………あれ?」

ほのかにミントの後味も爽やかな、夏向けのハーブティーをいただきつつ、
ふと視線が流れた先、ドレッサーの鏡前というまんまん中へ、
それは大事そうに置かれてあったものへと気がついて。
ちょっぴり力むと目尻が上がって猫目になるその双眸が、
正しく…獲物を見つけた猫科のお眸々へ様変わり。

 「何ですか、これ。」
 「え? …………あっ、/////////」

ぴょこりと立ち上がって、慌てた七郎次の手が伸びるよりも
一瞬 素早く攫った“それ”は、

 「うあ、男物の時計じゃないですか。」

文字盤も金属のバンドも大きめで、
時々、小さな手を強調する大きめのバングルなんぞを、
腕に嵌めることのある彼女ではあれど。
こちらはそういうおしゃれな雑貨とは程遠い、
よくよく使い込まれた末の、
いかにも中古品という感のシンプルな代物で。

 「やだ、ヘイさん返して…っ。」

ただ見回しているだけの小ぶりな手元へと、
焦りつつ手を延べる白百合様だったが。
すんでのところで横合いから別な手が伸び、
あっさりと掻っ攫われていて。
しかもしかも、

 「………島田の匂いがする。」
 「久蔵、問題発言しないの。」

具体的な“香り”という意味じゃあなく、
こういうモデルを好みそうという意味なのだろが。
メッと平八もまた非難しかかり、ただ……、

 「ただまあ、意味深な忘れ物じゃあありますがvv」
 「な…っ。////////」

味方をしてくれるかと思いきや、すぐ傍らからそんなご意見が飛び出して、
七郎次の真白な頬が真っ赤に染まった。

  ―― だって時計ですよ? 時計。
     こんなの外すのって、例えばシャワ……

    ち〜が〜う〜ってばっ!!//////////

体のほうは久蔵へと詰め寄りながらも、
張り上げた声は平八のほうへと向けられていて。

  ―― でもでも、外したシチュがあったってワケでしょう?

    〜〜〜〜〜〜っっ!!!

とうとう感極まったか、
口許をうにむにと撓めつつ、
肩越しに平八を見やったお顔は…今にも泣き出しそうにも見えて。

 「ああもう、冗談に決まってるでしょうが。」
 「だって……。///////」

少しでも体を傾ければパンチラしそうなほど、
むちゃくちゃ短いスカートは平気ではけても、
リアルな何かしらを勝手に邪推されるのは、
泣きたくなるほど困るところが、

 “ホント、罪な人なんだからもう。”

当然のことながら、
真摯な困惑に取り乱し掛けている七郎次に
いち早く気づいたらしき久蔵は、
落ち着いてと宥めるほうへ、
そうそうに態度も姿勢も塗り替えておいで。
問題の時計もあっさりと渡しており、
平八へゆるゆるとかぶりを振って見せる辺りは、

 “うあ、久蔵がお母さんに見える日が来ようとは。”

ヘイさん、気持ちは判るぞ。(こら)
それはともかく。

 「大方、古い時計の習いで、
  手を洗うおりにもいちいち外す習慣がついちゃってるのでしょう?」

防水性に疑いがあるよな、
それもまたある意味“年代物”な時計を使ってた折の癖が残ってて。
出先で立ち寄ったレストランの洗面所かどっかへ忘れたとか。
そんなところなんでしょ?と、
無難な話を持ち出した平八なのへ、

 「……うん。////////」

こっくり頷いた白百合様だったけれど。

  ―― 実は実は、
    その通りという意味の“うん”じゃあなかったりする。


  『……う〜〜〜っ、』
  『あ、これ。何をするか。』


刑事という仕事柄、
せっかく二人っきりでいる場でも、
携帯電話がいつ鳴り出すかと、
それを思うだけでも胸が切なくも詰まるのに。
身についてしまった性分からか、
時折 自分の左腕を見やる勘兵衛なのが、
どうにも我慢出来なくて。
今時、デートの場へきっちりと時計をしてくるなんてダサイです…と、
駄々をこねて取り上げたのがホントの真相。
うっかりと返すのを忘れてしまったものだから、
そんな我儘をやらかした罪深さまでが込み上げてしまった、
悩めるヲトメの複雑な心境、
お友達の二人へは一体どう伝わったやら。


  今年もまた、実りのなかった夏になりそな気配が、
  秋の風と共に届きそうです、三人娘。




    〜Fine〜  10.08.21.


  *別なお話を書いてたんですが、
   微妙に長丁場なので、気分を変えたくなりました。
   特に意味なく思いついたネタですが、
   女子高生だからというネタでもなかったですかね?
   ただまあ、ウチのCPの中では、
   こういうのこの二人が一番似合いそうで…vv

  *恐らくは他のお嬢様がたも、
   大した進展なんてなかった夏だと思われます。
   ゴロさんを除くそれぞれのお相手が、
   天然なところでも、野暮天なところでも、
   彼女らより一枚上手な方々ばっかですものね。
(おいおい)

  *私信
   いよいよ正念場の砂幻様へ。どか、頑張って下さいませね?

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